
@su2umaru です。経済産業省の課題解決型 AI 人材育成プログラム「AI Quest」に参加しました。参加を決めた経緯から修了式までを振り返り、AI Quest で得られた経験を書きます。
経済産業省の課題解決型 AI 人材育成プログラム「AI Quest」
公式サイトによると、AI Quest は、ケーススタディを中心とした実践的な学びの場で、参加者同士が学び合い、高め合いながらAI活用を通した企業の課題解決方法を身に着けるプログラム、とのことです。
プログラムを終えた今、実践的な学び、参加者同士の学び合い、企業の課題解決、といった全てが満たされていたプログラムだったと振り返ります。
データ分析プラットフォームとして有名な Kaggle や SIGNATE では、課題、タスク、データ、評価指標があらかじめ定められています。特定の状況下で、データ分析のスキルを競うコンペティションが開催されています。可視化、前処理、モデル作成、といったデータ分析のスキルを競うプラットフォームとして、この形も1つの正解です。
一方、AI Quest では、課題、タスク、データ、評価指標、といった従来のプラットフォームであらかじめ定められているものから自分で考えなければいけませんでした。それらに加え、作成したモデルをどのように業務プロセスに組み込むか、費用対効果はどれくらいか、といったことも自分で考えなければいけませんでした。従来のプラットフォームでは当たり前とされていることを自分で考え抜くという経験、これが AI Quest の醍醐味であり、データ分析プラットフォームではなく、課題解決型 AI 人材育成プログラムとしての正解だったと振り返ります。
参加を決めた経緯
2020年8月下旬、内定先から AI Quest 受講生募集に関するご案内がありました。
当時の僕は自然言語処理の研究に取り組む学生でした。普段は Python を書き、scikit-learn や PyTorch といった機械学習ライブラリを使用していました。機械学習エンジニアやデータサイエンティストとしてインターンシップに参加した経験がありました。詳しいプロフィールは About に書いてあります。
そんな僕が AI Quest に参加した決め手は4つあります。
- 普段取り組んでいる研究とは異なる、企業の課題解決に向けた実践的な学びの場に魅かれた
- データ分析と向き合うための強制的な仕組みがほしかった
- 経済産業省のプログラムだった
- オンライン開催だった
結果的に参加を決めた半年前の僕を褒めることとなりました。
第1ターム:PBL (Project Based Learning)
AI Quest は半年間のプログラムで、第1タームと第2タームが2ヶ月ずつ開催されました。
第1タームは全員 PBL (Project Based Learning) という、自ら問題を発見し、問題解決する過程の中で知識や経験を得ていく形式で開催されました。僕は需要予測・在庫最適化というテーマで、メディアショップ販売実績データを用いた需要予測に取り組みました。
一般的に AI 導入プロジェクトは5つのプロセスで構成されます。
- 要求定義:AI 化テーマに取り組む意義を理解し、必要となる周辺情報を取得し、要求定義する
- 要件定義:どの業務を AI 化するのか具体化し、現場からの要求を実装可能な形で要件定義する
- モデル開発 (PoC):モデル構築に必要なデータの前処理、モデリングを行い、その精度を明らかにする
- 本番実装・運用計画:AI 化業務を実際の業務環境に組み込むため、本番実装・運用方法を計画する
- 意思決定者へのプレゼン:これまでの検討結果について、実企業での意思決定の場を想定し、本実装に向けたプレゼンを行う
5つのプロセスに対応するように、PBL では3つの課題がありました。
- ビジネス課題:プロセス1, 2に対応
- AI 課題:プロセス3に対応
- プレゼン課題:プロセス4, 5に対応
1つ目のビジネス課題では、自ら問題を発見することを求められました。企業の設定が与えられ、その情報から課題、タスク、データ、評価指標を自分で考えました。この経験は他ではできず、とても貴重でした。
2つ目の AI 課題は、Kaggle や SIGNATE で開催されているコンペティションと同じでした。期間は3週間と短めでした。また AI 課題のランキング上位5%は表彰されました。僕は45位/267人と残念ながら表彰は逃してしまいました。しかしコンペティションの開催期間ずっとコミットし続けたことは初めてで、可視化、前処理、モデル作成、実験管理、といった多くのことを AI 課題で学びました。
3つ目のプレゼン課題では、作成したモデルをどのように業務プロセスに組み込むか、費用対効果はどれくらいか、といったことを考えました。それに加え、本実装を行うか否か決まる重要な意思決定の場を想定してプレゼンを作成しました。プレゼンを見やすくするためには情報を少なくするべきというこれまでの常識を覆す、情報が詰め込まれているが見やすいプレゼンを作成するスキルを学びました。作成したプレゼンは同じ PBL に参加している方同士で採点されました。プレゼン課題でもランキング上位5%は表彰されましたが、ここでも表彰は逃してしまいました。
PBL の3つの課題を終えた時点で表彰を逃してしまったと思いました。正直、とても悔しかったです。しかし救いの手が差し伸べられるように、コミュニティ活性化貢献者という形で表彰されました。この表彰は、プログラム参加状況や、他参加者の学習への貢献度合いなどを総合的に評価するものでした。
この表彰のきっかけとなったのが個別 zoom 面談の開催です。AI 課題締切日の数日前に、まだ AI 課題を提出できていない方や順位が上がらない方と個別で zoom 面談を行いました。合計9名の方々と面談させていただき、それぞれの方から課題や悩みを伺いながら、僕がアドバイスさせていただきました。個別 zoom 面談を通して、集合学習や独学の限界、裏を返せば個々に応じた学習の必要性を感じました。さらに人の課題を解決することが好きであることを改めて認識することができました。
第1タームの PBL を振り返り、積極的にさまざまなことに取り組み、その分多くのことを経験できた2ヶ月間だったと振り返ります。
第2ターム:企業協働
第2タームは PBL と企業協働に分かれて開催されました。僕は企業協働に参加して、実際に中小企業のご担当者様にヒアリングしながら、第1タームで取り組んだ要求定義から意思決定者へのプレゼンを行いました。
企業協働は希望制でしたが、定員をはるかに超える希望者がいらっしゃったようです。そもそも参加できる人数が少ないこともありますが、やはり実際に AI 導入プロジェクトに取り組みたいという方が多くいらっしゃったのだと思います。僕もまさにその1人でした。AI Quest に参加することの最大の目的が企業導入でした。定員を超える希望があったため参加者の選抜がありました。僕のこれまでの経験 をベースに、課題を解決することで誰かの役に立ちたいという思いを強く伝えました。遠慮なく思いを伝えたことが功を奏し、無事に企業協働に参加できることが決まりました。
僕が担当させていただいたテーマは「需要予測および発注業務の工数削減」でした。このテーマに関して、12月末から2月頭まで約2ヶ月間、取り組ませていただきました。途中、コミュニケーションが疎かになってしまいましたが、きちんと軌道修正でき、最終的には AI 導入まで辿り着けました。中小企業のご担当者様にもありがとうのお言葉をいただきました。
「きちんと役に立つことができた」
大きな満足感を得られました。
AI Quest で得られた経験
AI Quest に半年間参加して、多くのことを得られました。
まずは AI Quest に参加した決め手に対して実際どうだったか振り返ります。
- 普段取り組んでいる研究とは異なる、企業の課題解決に向けた実践的な学びの場に魅かれた → ROI (Return on Investment) を考えること以外は同じだった
- データ分析と向き合うための強制的な仕組みがほしかった → 半年間、プライベートでデータ分析に向き合った
- 経済産業省のプログラムだった → 国の方々が AI 人材育成に対して真剣なことがわかった
- オンライン開催だった → オンラインでなければ移動にかかる時間的コストと金銭的コストが大きすぎて参加しなかった
新たに得たことも多くあります。
- AI の関心度は非常に高いことを体感した
- 個別 zoom 面談や LT での発表など集団の中でしか取り組めないことがたくさんある
- 情報が詰め込まれていても見やすいプレゼンは見やすい
- 複数人での開発になるとマネジメントが必要
- コミュニケーションコストが想像以上に高い
- 得意と不得意がはっきりしている人が多いため分業がベター
- 何事も主体的に取り組むことで大きな学びになる
総じて、AI Quest に参加して、真剣に取り組んでよかったです。特に学生の間にこの経験を得られたのはとても価値があると思います。
AI Quest を終わらせない
AI Quest は半年間のプログラムなので、その期限で終わってしまいました。
しかし AI Quest でできたコミュニティや繋がりは、終わらせるも終わらせないも自由です。
僕は後者を選択します。
AI Quest を通して、多くの強い思いをお持ちの方々と出会えました。
そのような方々と、今後も高め合います。
「AI Quest 受講者の皆様、これからもよろしくお願いします」